泣いて、凪いで、泣かないで。
「おっす、美凪(みなぎ)!」


俺は、カノジョでもない女子の髪を不要にいじるのは厳禁だなと思い止まり、美凪のリュックに手を乗っけた。

すると、美凪は相変わらずのキョトン顔で俺を見つめてきた。

そして、桜のようなピンク色のリップが塗られた唇を動かし始める。


「おはよ、ゆっと」


始めはローテンション。

それが美凪だ。


「んだよ、元気ねぇな。今日から新学期始まるんだから、もっと元気出せよなぁ」


俺が突っかかっていけば、きっと......。


「私、ゆっとより何倍も元気だと思うけど。この1年、風邪1つ引いてないのに、ゆっとはインフルエンザAもBもかかったじゃん」


おお、おお!

やっぱ乗ってきたな。


「おい、バカにしてんのか?!」

「うん」


可愛くねえヤツ。


「ほんと、美凪はひねくれヤローだな」


適度にいじってやる。


「ヤローじゃないし」


応戦してきた。

うんうん、その調子その調子。


「ヤローで十分だ」


俺がそう言うと、


「ひっど!」


顔を膨らませ、拳を振り上げようとする。

俺は逃げ出した。


「殴れるもんなら殴ってみろ!」

「もぉ!」


むきになるなんて子供だなぁと思いながら、

それを楽しんでしまう。

バカだなぁと思いながら、

俺は追いかけてくるのを待ってしまう。

いじるのがこんなに楽しいヤツ、

多分、美凪以外、いない。

美凪が追いかけてくれるのを心のどこかで待ちながら、ひたすら前を歩いていたら、突然耳をつんざく高音が鳴り響いた。


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