泣いて、凪いで、泣かないで。
「美凪海(みなみ)!」


蓋に触れた瞬間、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

この声はきっと父だ。

そう言えば、仕事で海水調査するから海を見に来るって言ってたな。

仕方ない。

これは後で見よっと。

ただし、このことはナイショね。


「は~い!」


私は大きく返事をした。

行ったら、また頬をつねられるのかな?

でも、いいや。

お父さんはこの攻撃が好きみたいで、私がフグみたいに頬を膨らますと笑ってくれるから。

私は海と空に背を向け、風を切って走った。

どんどん加速して、父の姿が近づく。

待っててね。

今、行くから。


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