泣いて、凪いで、泣かないで。
「タルト、ある」

「えっ?」

「お前の好きなタルトあったから、買ってきた」


タルト。

それは魔法の3文字だ。

俺はじっと箱を見つめたまま、呼吸だけをおとなしく繰り返した。

トントントン...と美凪が近付いてくる。

俺の隣に来て、手元の箱を開けた。

ケーキの甘い香りよりも先に、美凪の柔軟剤の香りが俺の鼻を刺激した。


「うわぁ!美味しそう!」


やっと、笑った。

美凪が笑うと、

やっぱなんか、くすぐったい。


「ゆっと」

「なんだよ」


ぶっきらぼうな俺の言葉にも屈せず、


「ありがと」


美凪はその心からの1番暖かい言葉を俺にくれた。

俺は頭に手をやり、わしゃわしゃと髪をかき回した。

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