無気力さんと同居するらしい
前方の黒い傘に向かって思わず駆け出す
まだ整い切ってない息を乱しながら
ただ、その人物に向かって足を進める
鮮明に覚えてるわけじゃない
ただ、ずっと私の記憶に居続ける
たった一週間の夏の思い出
バスの定期を拾っただけの、一言、二言話しただけの
黒髪の男の子
「あ、あの!!」
急ブレーキをかけて前につんのめりそうになりながら、その人物に声が届く距離で叫ぶ
…しかし
「うお、めっちゃ濡れてんじゃん」
……へ?
雨で濡れた視界を、雨で濡れた服の袖で拭って
目の前の人物を見た
「……ま、ことくん?」
「この雨の中走って帰るとか無謀だろ、ちょっとは考えろバカ」
淡々とした声を私にかけるのは、紛れもない同居人
今朝見た顔
傘を2つ持った、織原真琴