溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 会えない……本当に会えない。そして和也くんの愛が足りない。

 同棲をはじめて十日。

 わたしはすでに悶々としていた。

 いったいなんのための同棲なのか!?

 うきうきしてはじめた同棲なのに、なぜこんな状況になってしまっているのか。

 それはひとえに和也君の仕事が忙しすぎるのが原因だ。

 デートなんてもってのほか、一緒に食事する時間も皆無。深夜に帰ってきて早朝に出て行く和也くんとすれ違いが続き、声すらまともに聞いていない。

「今日はもう、なにがなんでも会って声聞くんだから!」

 日曜日の朝。まだ世間が動き出す前の時間。わたしは隣にいるはずの和也くんがまだ帰ってきていないのを見て、ひとりベッドで並々ならぬ強い思いを抱いていた。

 すると寝室の扉が開き、シャワーを浴び終えた和也くんがベッドに入ってきて、わたしを抱き寄せる。

「今から寝る」

「え? そんなぁ……ちょっとだけでもお話ししない?」

 せっかくなのにと、途端にがっかりしてしまう。

「十六時に出かけるから、準備しておいて」

「え? 嘘?」

「は? 嫌なら今日は一日寝るけど」

「ダメ! 絶対!」

 わたしは和也くんの言葉に慌てた。

「デートでいいの?」

「ああ。花火見にいくぞ」

「本当に?」

 このあたりで一番大きな花火大会が今日行われる。小さい頃は家族でよく見に行ったものだ。

「嘘なんかつくか。とりあえず徹夜で眠い。それまでおとなしく待ってろ」

「うん、わかった!」

 わたしは声を弾ませ寝室を出た。

 そしてすぐにスマートフォンを手に実家に電話をかけた。

「お母さーん、瑠衣~、手伝って~」

 わたしは慌てて身支度をしながら、母と瑠衣に助けを求めた。
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