溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 多くの人がぞろぞろと同じ方向に向かって歩いている。わたしも和也くんに手を引かれて流れに逆らわないように歩いていた。

 和也くんから花火大会に誘われた後、わたしは一度実家に帰って支度をした。時間になって和也くんに迎えに来てもらった。

「ねえ、ねえ、リンゴ飴食べたいな。あっ、かき氷も!」

 歩いている間、あちこちに出ている出店に心を奪われる。

「わかったから、もう少し先にも同じような店あるだろ。ったく、そんな格好してても色気より食い気かよ」

「あっ……ごめんなさい」

 思わずシュンとしてしまう。

「そんな落ち込むな。ほしいもの全部買ってやるから」

「そうじゃないのに……」

 せっかくおしゃれしてきたのだ。少しくらい褒めてほしい。

 母と瑠衣に協力してもらい、浴衣を着付けてもらった。

 紺地に白い丸菊があしらわれた落ち着いた雰囲気の浴衣に、アクセントとして黄色の帯を締めている。そこに瑠璃色の帯締めを合わせて、ローズピンクの帯留めを選んだ。

 メイクも瑠衣に頑張ってもらい浴衣に合うように華やかにしてもらった。特に目元のパールを使ったアイシャドウとピンクのグロスがお気に入りだ。

 それなのに、それなのに……まったく褒めてくれないなんて悲しくなる。

 思わず不満を顔に出してしまった。

 しかしそんなわたしを見て、和也くんがニヤリと笑った。

 そしてゆっくりとわたしの耳元に唇を寄せて囁く。

「すげーかわいいから、今日誘ってよかった」

「……っ」

 ほしかった言葉以上のモノをもらえて、思わず膝から崩れ落ちそうになってしまう。
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