溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「そうですよ、和也くんに限って浮気だなんてそんなことないです」

「ふーん、そうなんだ。なんだ……やっと俺の出番だと思ったのに」

 君島先生は肩をすくめて悪びれた様子もない。

「もう、冗談でもそういうこと言うのやめてください」

「ごめん、ごめん。瑠璃ちゃんがあまりにもいい反応するから、つい……ね」

 謝りながら診察室に入っていく君島先生を軽く睨む。

 それから午後の診察がはじまっても、君島先生の言った言葉がときおり頭をかすめる。

 和也くんを信用していないわけではない。今だってものすごく大切にされている実感はある。

 だから不安になる必要なんてないのに、どうしても胸がざわつく。

 きっと会ってしまえば、この不安な気持ちはどこかに飛んでいくはず。

 そう思ったわたしはすぐに行動に移した。



 また来てしまった。

 わたしは中村総合病院の職員入り口近くまでやって来ていた。

 前回、色々と迷惑をかけてしまったから、今回は近くの喫茶店で待っていようと思っていたのに、うっかり病院まで来てしまった。

 和也くんのスマートフォンにメッセージを送って、おとなしく引き返して、喫茶店か部屋で待っていればいいものの会いたい気持ちが先立ってしまい、あと少しだけ、少しだけとずるずるここに立って彼を待っている。

 そのとき通用口から出てきた人と目があった。

「あら……あなた」

「あっ」

 それは和也くんのお姉さんの昌美さんだった。あちらもわたしに気がついたようでクスクス笑いながら近づいてきた。

「あら、また和也に待たされてるの?」

「あ、いえ。わたしが勝手に待ってるだけなんですけど……約束もしてませんし」

 前回注意された手前、気まずくてうつむいた。けれど彼女のほうはあまり気にしていないようだ。

「あら、そうなの。だったら、ちょっとわたしにつき合ってもらえないかしら?」

「え、あの……え?」

「行きましょ?」

 にっこり微笑んだ昌美さんは、わたしの返事を待たずに歩き出してしまった。

 なんか和也くんとタイプは違うけど、強引……? やっぱり姉弟なんだな、なんて思っていると、気がついたときには昌美さんは随分先に歩いていってしまっていた。

 わたしは慌てて、昌美さんの後を追いかけたのだった。
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