溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「あの大丈夫です。わたしも和也くんとつき合えたことは、奇跡だと思っていますから」

 誰よりも自分が一番驚いているのだ。周りが驚くのも無理のないことだ。

 わたしの言葉に昌美さんは笑っている。しかしすぐに表情が真面目なものに変わる。

「瑠璃さんは、和也といて劣等感を感じない?」

「え、劣等感ですか……、まあすごい人だとは思ってますけど」

 けれど劣等感とは違う。尊敬というほうが合っていると思う。

 昌美さんはぽつりぽつりと自分の話をしはじめた。

「わたしね、小さい頃は医師になりたかったの。実家が病院だし物心ついたときには医師になるんだって思ってた。だけど成績が全然追いつかなくてね。和也が医学部に合格したときにやっと諦めがついたのよ」

 その話は以前和也くんから聞いている。わたしは黙って彼女の話を聞いた。

「昔からそうだった。わたしが努力して努力して頑張っても手に入れられないものを、いとも簡単に手に入れるのよ、あの子は。だからわたしはいつの間にか劣等感のかたまりになっちゃった」

 姉弟、近い存在だから比較してしまうこともあるだろう。わたしだって自分と瑠衣を比べたことが何度もある。でも劣等感を持ったことはない。

「でも昌美さんは、和也くんのことが嫌いなわけではないですよね?」

「もちろんよ。今回の主人が起こした不祥事だってあの子は関係ないのに、実家に戻って後始末をしてくれているの。感謝しかないわ」

 昌美さんの様子から、心からそう思っているのは伝わってきた。

「和也くんも、お姉さん、家族のことを大切に思っているんだと思います。だからこそ、実家の病院とは距離をおいて働いていたし、だけどピンチになった今は自分が頑張らないと……そう思っているんだと思います」
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