溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 いつもはそわそわしながら彼の帰りを待つのに、今日に限っては不安に押し潰されそうだ。

 何度か電話やメッセージを送ったが、返事はない。それもいつものことと割り切ればいいのに、気になって何度もスマートフォンを手に取り、その都度返事がないことに落ち込んでしまう。

 ただ時間だけが無駄に過ぎていく。帰宅後すでに四時間が経っていて間もなく日付が変わろうとしていた。そのとき玄関のドアが開く音がした。

 帰ってきたんだ。

 いつもなら彼の帰宅がうれしくて、子犬のように駆けていってお出迎えする。しかし今日のわたしにはそんなことをする気力さえなかったのだ。

 足音が近づいてきた。

「瑠璃、まだ起きてたのか?」

 和也くんが荷物を置いてこちらに歩いて来る音が聞こえる。けれどわたしは振り向くことができない。

「おい、どうかしたのか?」

 和也くんはあまりにもいつもと様子の違うわたしに気がついたようだ。

 わたしの近くまできて顔を覗きこんできた。けれど素直にその顔を見ることができずに、視線を逸らした。

「はぁ……どうした?」

「なんで、なんで連絡してくれないの? 何度も連絡したのに」

 不安のせいで彼を責めるような口調になってしまう。

「悪かった。ちょっとばたついてたんだ」

 疲れた様子で髪をかき上げた。いつもならそんな彼を気遣うことができるけれど、今日は自分のことで精一杯だった。

「仕事?」

 彼を試すような質問をする。本当はこんなことするべきではないのに……。

「ああ、まあ……」

 和也くんの答えを聞いた途端、わたしの中でなにかがはじけた。

「嘘つき」

「え?」

 わたしの言葉に和也くんは驚きを隠せないようだ。わたしは自分が見た事実を彼に突きつける。

「わたし今日見ちゃったの。和也くんが女の人と一緒にいるところ」
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