溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 わたしはそれを励みに、リハビリを頑張りそれと同時に自分の新しい目標を決めた。

 本当は彼と同じ医師になって、白衣で切磋琢磨することも考えた。けれど学力的問題が立ちはだかり医師になるのは諦めて、彼を支える看護師になることを選んだ。

 彼があのベンチに来なくなった後も、彼の隣で働く自分を想像してそれだけを糧(かて)に大学受験をして見事合格。

 しかし医学部でモテ男の和也くんとの接点なんて簡単に持てるはずもない。そんな状況で悶々と過ごしていたときに、ふと思い立って参加した小児科への慰問のボランティアで彼と一緒になった。

 このときやっぱり運命を感じたし、神様っているんだなって思った。

 それを和也くんに話すと、ものすごく嫌そうな顔をしていたけれど、そんなの気にしない。わたしには神様が味方してくれてるんだから。

 三カ月に一度あるボランティアの日が、わたしにとってのデートの日。患者さんに接する和也くんはとても優しくて、それを見ているだけでも幸せだった。

 もちろん告白だって何度もした。そのたびに玉砕して、もう周りからはかわいそうだとも思われていなかった。

 就職先も迷わず付属の大学病院にした。そのためにずっと勉強を頑張ってきた。やっと和也くんと一緒に働くことができると思った矢先、和也くんは大学での研修を終えてアメリカに留学してしまう。

 ふつうの人ならそこで諦めちゃうんだろうけど……わたしはそう思わなかった。

 ひどいと責めるわたしに、和也くんはメモに書いたメールアドレスを渡してくれた。それだけで、もう何年でも待てると思った。

 彼が帰ってくるまでに、立派な看護師になるんだって決意してそれはもう必死になって働いた。

 このときのわたしは、十通に一通あるかないかのメールの返事に支えられていた。

 そして四年後、和也くんが帰国することになってワクワクしながら待っていたら、もといたわたしの勤務する大学病院ではなく、恩師のいる病院に勤務すると聞いて、わたしは落ち込んだ。

 それでも諦めきれないわたしは、彼に会いに行く。

 留学後はじめて会った日も告白した。和也くんは『無理』とひと言いつものごとく冷たく言い放ったけれど、わたしを見たときに微笑んだのを見逃さなかった。

 別れ際に『ただいま』って言ってくれたことがどんなにうれしかったか。

 彼がきっかけで目指した看護師だったけれど、今は本当にこの仕事が好きだ。自分の天職が見つけられたのも、和也くんのおかげだ。

 とはいえ……今に至るまで完全にわたしの一方通行な片思い。もう片思いもプロの域に達していると思う。

 それでも今、和也くんのクリニックで働くことになって自分の夢がひとつ叶うことになった。

 頑張れば報われることもあるんだ。

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