溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
* * *

「ねえ、お姉ちゃん。にやけてるところ悪いけどさ」

 瑠衣の声が聞こえて、わたしははっと我に返った。

「え、なに?」

「なに? じゃないわよ。それもう本当にストーカーだよ?」

「あははっ、それ和也くんにも言われた」

 声をあげて笑うわたしを、瑠衣は呆れた顔で見ている。

「ほんとにさ、お姉ちゃんの辞書に〝諦める〟って文字はないわけ?」

「……そんなこと……ないよ」

 いきなりトーンダウンしたわたしの声に、瑠衣の顔が真剣になる。

「お姉ちゃん?」

「わたし、今回和也くんが振り向いてくれなかったら、諦めることにしてるの」

「え? 嘘でしょ?」

 長い長いわたしの片思いの歴史を知っている妹の瑠衣からすれば、わたしの言葉がにわかには信じられないのも無理はない。けれどわたしの決意は固い。

「本当だよ。わたしももう二十九だし、いい区切りかなって思って。今までの人生で一番和也くんの近くにいられるんだ。だから今回がダメなら、わたしにはもうチャンスがないんだと思う」

 いくら神様が味方だとしても、和也くんの気持ちを変えることはできない。ずっと諦められなかったけれど、これがラストチャンス。

 就職が決まったとき、そう決めた。

「ふーん。まあ、やけ酒にはつき合うから声かけて」

「あっ」

 瑠衣の綺麗にネイルアートを施した指が、わたしのお皿の上にあるミニトマトをつまんだ。

「もう、楽しみにしてたのに」

「だからね、そうやって好きなものを最後までとっておくのやめな。誰かに奪われちゃうんだからね、このトマトみたいに」

 瑠衣はぱくんとミニトマトを口の中に放り込むと「片付けよろしく~」と、さっさと自分の部屋に引っ込んでしまった。

「もう、要領がいいんだから」

 瑠衣のぶんのお皿まで片付けながら、わたしは今日の和也くんを思い出してにやけた。

 来週からは、和也くんと一緒にいられるんだ。

 そう思うだけで体中からパワーがみなぎってくるような気がした。
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