溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「いただきますっ」

 ふたりで同時に手を合わせて食べはじめる。

「ん~」

 つるつるの麺に、しっかりとスープが絡んでいくらでも食べられそうだ。チャーシューの味も好み。

 夢中で食べていると、どんぶりの中に煮玉子が置かれた。

 顔を上げると、和也くんがこちらを見ている。

「好きなんだろ? それ」

「えっ? なんでわかったの?」

 和也くんの前で煮玉子が好きなんて話をした記憶がない。彼との思い出は微塵も忘れたことのないわたしが言うんだから、間違いない。

「お前、いつも好きなもの最後に食べるだろ」

「あ、うん」

「わかりやすくて笑える」

 クスクス笑いながらこちらを見る和也くんを見て、わたしの胸がキュンとなる。

 そんなところ、見ていて覚えていてくれたなんて、うれしすぎる。

 わたしが和也くんから離れられないのは、こういうところだと思う。興味がないと思いきや、よく観察しているし、本当に大変なときは助けてくれる。

 だから片思いの沼から抜け出せないんだ。

 むしろもう、居心地がいいとさえ思いはじめてきているから重症。

「最後にとっておいて、大事に食べるね」

「玉子くらいでおおげさ。玉子みたいな顔して笑うな」

 そう言われてもうれしいんだから、仕方ない。

 その日食べた煮玉子は、今まで食べたどんな玉子よりも美味しかったのは言うまでもなかった。
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