溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「ふぁあ~」

 大きなあくびを抑えつつ、わたしはデスクライトに照らされた本を熱心に読み込む。時折ラインマーカーで線を引きながら、頭の中に知識を詰め込んでいく。

「あれ、これって前にも出てきたな」

 前のページをさかのぼっていくと、またあくびが出た。

 女として和也くんに〝かわいい〟って思われたいのはもちろんだけど、それだけじゃ満足できない。わたしは彼に必要としてほしい。そのために一番の近道はやっぱり医療の知識をしっかりと身につけることだと思う。

 今まで勤務してきたのは小児科で、和也くんの専門である循環器内科は専門外だ。特に彼の研究分野である心臓の病気に関しては詳しく勉強しておきたい。

 もちろん普段の看護師としての仕事も手を抜くつもりはないけれど、勉強もしっかりと続けたい。
 そこでふと疑問が浮かんだ。

 でも和也くんはなんで今のクリニックを引き継いだんだろう……?

 和也くんはそれまでアメリカでの研究でお世話になった先生の病院で働いていた。世界でも最先端の医療を施す病院で研究を続けていたのに、突然このクリニックを引き継いだのだ。てっきり実家の病院でいつかは働くと思っていたので、驚いたのを覚えている。

 実家の病院のほうが大きくて、和也くんの研究も自由にできるはずなのに……不思議だな。

 そんな疑問を感じつつも、本の文字に目を走らせる。しかししばらくすると眠くなってきた。

 なんとか耐えようとしてはみる。けれど新しい職場でしかも和也くんと一緒に働けるとあって、いつもよりも張り切っていたわたしは、ついに何度目かの睡魔の誘惑に勝てずに本をパタンと閉じて、ベッドにダイブした。

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