溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 アフタヌーンティーセットにかわいらしいお菓子がのっている。カヌレにマカロン、マドレーヌ。チョコレートに……これは……。

「たい焼きですか?」

 お魚の形をしたそれは、少しサイズが小さいがたい焼きだ。

「そうそう。わたしの大好物なの。那夕子ちゃんとわたしが出会ったのもたい焼きのおかげね。そのお話もしたいんだけれど、まずはあなたと中村くんの話を聞かせてちょうだい」

 わくわくした好奇心いっぱいの目で見られて、わたしは嬉々として和也くんとのあれやこれやを聞かせようとした……が。

「はい、ストップ。とりあえず今日はまだ行くところがあるんで。これで失礼します」

「まあ、そうなの。残念だわ」

 豊美さんが肩を落としてこちらを見た。

「また今度ゆっくりお話しましょう。今日は中村くんにもいい子がいるってわかってほっとしたわ。お休みの日にでも遊びに来てね。那夕子ちゃんもいるし、ね?」

「そうですね、おばあさま。そのほうが色々お話しできますから」

「はい、そのときにまたゆっくり」

 立ち上がって往診用のかばんを運ぼうとすると、和也くんが先に持ってしまった。

「ほら、行くぞ。それと豊美さん、こいつは俺のいい子なんかじゃないですから」

 和也くんはしっかりと釘を刺していくことも忘れない。

「あの、お大事に」

 わたしは頭を下げて部屋を出た。家政婦さんが玄関まで見送ってくれる。

「和也くん、家族ぐるみで仲良しなんだね」

 駐車場で車に乗り込みながら尋ねた。

「ああ、尊とは中高の同級生だ。大学はあっちは薬学部だから別だったけどな。お前にしてはリサーチ不足じゃないのか?」

 和也くんはクスクスと笑った。

「だって、出会ったときは和也くんはもう大学生だったし、それに正直和也くん以外の男の人ってみんな一緒に見えるの」

「……おい、マジで一度病院で診てもらえ」

 ギロリと睨まれてわたしは思わずふくれっつらになる。

「ほんとのことなのに。それに診察なら和也くんに診てほしい!」

「いいから、他の人の前でそういうこと言うのやめろよ。豊美さんにあれこれ吹き込むのも禁止。あの人色々と画策するの大好きだから、気をつけろよ」
< 35 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop