溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「うん、わかったけど。画策ってなに?」

「いや、知らなくていい」

 その後の帰路は豊美さんの病状について、口頭で詳細な説明を受けた。カルテに書かれていることがすべてではないので、こういうのはうれしい。

 クリニックの駐車場に車を止めると、わたしひとり降ろされた。ぐるりと運転席の方へ回ると、和也くんがパワーウィンドウを下げて顔を覗かせる。

「俺は今からもう一件行って帰るから、お前は先に帰れ」

「でも……」

「いいから、新しい仕事で疲れてるだろ? 午後休診の日くらいはゆっくりしろ」

 すると彼の大きな手のひらが伸びてきた。そしてわたしの前髪をくしゃくしゃと混ぜるようにして撫でた。

 ドキッとしている間に、パワーウィンドウが閉まってしまう。そしてゆっくりと車を出発させると曲がり角に消えてしまった。

「あ~あ、もっと一緒にいたかったな」

 わたしにとって家に帰って休めって言われるよりも、一緒に診察に回っているほうが元気が出るんだけどなぁ。

 ぽつんと置いていかれて肩を落とす。

 しかし落ち込んでいても仕方ない。わたしは先程聞いた豊美さんの病気について色々と調べてみることにした。たしかこの間買った本の中に説明があったはずだ。

 受付カウンターで本を開いて、該当の箇所を探す。そこを読み込んでいると別のところが気になりそちらを調べる。

 そんなことをしているとあっという間に時間が過ぎてしまって……それとともに疲れのせいか眠気が襲ってくる。

 ああ、やっぱり和也くんの言う通り、わたし結構疲れているのかもしれない。

 家では瑠衣とヨガをしたりスキンケアを頑張ったり女子力アップに勤しんだ後、勉強もしている。

 もともと努力は嫌いではないせいか、少し無理をしすぎる性格だということは自分でもわかっていた。

 だけど……それでも、しちゃうんだよなぁ。だって、それで和也くんに認めてもらえるなら、なんだってしちゃうよ。

 ウトウトと眠りの淵を漂いながら、わたしはそんなことを考えていた。
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