溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「……いっ、おいっ。そろそろマジで起きろ!」

「ん……うんっ?」

 肩をゆすられて、わたしは自分が受付カウンターで眠っていたことにはじめて気がついた。ゆっくりと体を起こすと、怖い顔で和也くんが立っている。

「おい、なにやってるんだ。こんなところで」

「あ、うん……いつの間にか寝ちゃってたみたい」

 目をこするわたしに、和也くんは呆れ顔だ。

「なんのためにお前を先にここに連れて帰ったのか、わかってるのか? 早く帰れって言っただろ?」

「ごめんなさい」

 和也くんが怒っているのではないのはわかる。ぶっきらぼうだけど、わたしを心配してくれているのだ。だからこそ、申し訳なくてシュンとしてしまう。

「お前はいつもやりすぎるんだ。もう少し自覚しろ、送ってやるから準備して」

 和也くんはそう言うと、自分も帰る準備をしはじめた。

「いいのっ?」

 思わず目を輝かせてしまう。

「ああ、ついでだ。今日だけだからな」

「ありがとう」

 わたしは急いで手元にある本を片付けようとして気がついた。

 あれ、こんなところに付箋なんか貼ったっけ? あれラインも引いてある?

 手に取ってじっくり見ていると、帰宅準備を終えた和也くんが一冊の本を持って出てきた。

「豊美さんの病気については、こっちのほうがわかりやすい」

 一冊の本をわたしに差し出した。

「え? ありがとう」

「ああ。しっかり読んでおけば今後も役立つ。でもまあ、手元にあるお前の本も悪くない。いいセレクトしてるな」

「これって、和也くんが?」

 付箋を指差すと彼がうなずいた。

「ああ、一冊全部読む必要はないからな。印のつけたところだけはしっかり覚えておくといい」
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