溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「ありがとう、うれしい」

 わたしは彼が手を加えてくれた本をギュッと抱きしめた。

 こういう優しさが彼の魅力のひとつなのだ。

 普段は突き放すような態度なのに、わたしが本当に頑張っていることはちゃんと見てくれている。瑠衣は彼が冷たいって言うけれど、本当はこんなに優しいのだ。

 帰ったら自慢しよう!

 うきうきしながらバッグに本を片付ける。すると和也くんに電話がかかってきた。ディスプレイを見ると少し眉根を寄せた。そしてもう一度診察室に戻っていく。

 なにかあったのかと、扉の閉まった診察室を見ているとほどなくして和也くんが出てきた。

「悪い、急用だ。送っていけない」

「えっ? そうなんだ、わたしなら全然大丈夫だから気にしないで……」

 それでも期待してしまっていた分、がっかりを隠しきれない。

「そんな顔するな。またラーメンおごってやるから、な?」

「うん。わかった。ではお先に失礼します」

 これ以上わがままを言うわけにはいかない。頭を下げてクリニックを出るときにもう一度だけ和也くんの顔を見ておこうと振り返った。

 そのとき彼が大きなため息をついたのを見てしまう。

 大丈夫なのかなぁ? でもきっとわたしが大丈夫か聞いたとしても「なんでもない。早く帰れ」と言われるだけだとわかっている。だからあえて彼にはなにも言わずに、わたしはおとなしく家路についた。

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