溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「まあ、ただのわたしの予想だから、全然関係ないことかもしれないけどね。さあ、本人もいなくなったし、これで堂々と瑠璃ちゃんに先生との話を聞けるわ~。色々聞いちゃうからね」

 真鍋さんはテキパキ片付けをしながら、なおかつわたしと和也くんのことを根掘り葉掘り聞いた。

 わたしはちょっと調子にのってあれこれと話したのだけれど……。

「ねえ、瑠璃ちゃん。あなたが好きならそれでもいいけど、まあ、みごとに脈なしよね」

 はっきり言い切られてわたしは大きなため息をつく。

「はぁ。やっぱり。真鍋さんもそう思います?」

「ええ、悪いけど」

「昨日妹にも、三カ月もそばにいて一ミリも進展してないんだから、そろそろ諦めて他にも目を向けたらどうだって言われたんです」

 瑠衣には「まだたったの三カ月だ」とは強気で言ったけれど、和也くんが一筋縄ではいかないとわかっていても、さすがに少し焦っていた。

 だからこそ、真鍋さんにまでそういわれると落ち込んでしまう。

「まあね、片思いだって素敵だけど、いつまでもずるずるしてると賞味期限が過ぎちゃうわ。タイミングも大事だと思うから。瑠璃ちゃんの場合、これまでずっと中村先生だけを見つめ続けていたから、彼しかダメだって思い込んでるのかもしれないわよ」

「思い込み……ですか」

 そう言われても無理もない。

「そう。だからね、一度他の人に目を向けてみるのもいいかもしれないわよ。だって、世の中にはたくさん男の人がいるんだから」

 瑠衣だけならまだしも、真鍋さんにまで同じことを言われてしまった。

「はい……ちょっと考えてみます」

 今までそんなふうに考えたことはなかった。でも自分の決めた期限は一年。あと九カ月しかない。もしダメだったときのことを考えておくのも必要なのかもしれない。

「まあ、あまり思い詰めないことね。じゃあ、帰ろうか」

「はい」

 車通勤の真鍋さんと別れて駅に向かって歩く。

 これまで和也くんはわたしの生活の一部だった。それがなくなってしまうことの想像が今のわたしにはうまくできない。

「はぁ……難しいな……っと」

 ため息をついた瞬間、バッグの中でスマートフォンが震えた。取り出して画面を確認すると瑠衣からだった。

「もしもし?」

『お姉ちゃん。お願い助けて、ピンチなのっ』

「え? どうしたの?」

 瑠衣の声がいつもと違い慌てている。

『助けてほしいの。今から地図送るからすぐにそこに来て』

「わかった。大丈夫なの?」

 心配になってわたしは駆け出した。

『お姉ちゃんが来てくれれば大丈夫だからっ』

「わかった、すぐに行くから、そこで待ってて」

 電話を切ったわたしは送られてきた地図を確認してすぐにタクシーを拾った。
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