溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「おねーちゃん!」

 指定された場所でタクシーを降りると、瑠衣がすぐに見つけてくれた。わたしは慌てて降りて瑠衣のところに駆け寄った。

「だ、大丈夫なの? いったいなにがあったの? お、落ち着いてお姉ちゃんに――」

「はいはいはい。落ち着くのはお姉ちゃんね。はい、深呼吸して」

 瑠衣に言われるまま、深い呼吸を数回繰り返した。

「はい、よくできました。じゃあ、行こうか」

 にっこりと微笑む瑠衣の顔を見て疑問しか浮かばない。

「行くって、どこに? 助けてって、なんのこと?」

 このときになって、瑠衣は落ち着いていていつもとなんら変わらないことに気がついた。

「ああ、ごめんね。ああやって呼び出さないとお姉ちゃん来てくれないと思って」

 瑠衣の視線の先には、男女数人が店の入口で談笑していた。

「なにこれ?」

「なにって、合コンよ。合コン。ほら、にっこり笑って~。行くわよ!」

 ぐいっと手を引かれた。

「え、ちょっと待って。わたし合コンなんて行かない」

「つべこべ言ってないで、お姉ちゃんが来てくれないと人数合わないの。それにいつまでもバカのひとつ覚えみたいに和也くん和也くん言ってないで、たまには他の男を見てみなさい」

「他……」

 そういえばさっき真鍋さんも同じようなことを言っていた。

「それに、男女の駆け引きを少しは勉強しなきゃ。これは中村さんを落とすときにも役に立つと思うよ。お姉ちゃんこの手のこと全然知らないじゃない」

 たしかに瑠衣の言う通りで、高校生のときから和也くん一筋だったわたしは恋愛に対して正直なにもわかっていない。経験ゼロなのだ。

「誰かとカップルになるとかいうのが目的じゃなくて、大人の男女の社交場だと思って! これも社会勉強だから」

 その手のことは瑠衣のほうがよく知っている。自分が恋愛初心者だということもわかっている。

 勉強かぁ……もしかしたら、和也くんとの関係になにか突破口が見つけられるかもしれない。

「わかった。でもわたし本当に頭数合わせにしかならないよ?」

「大丈夫、お姉ちゃんには全然期待してないからっ」

 それはそれでどうなの?と思わないでもないけれど「お待たせ~」と走っていく瑠衣に置いていかれないように、わたしは精一杯の作り笑いを浮かべて和の中に混じった。

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