溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 ふと視線が気になって、顔を上げると先程の向かいに座っている男性がこちらをニコニコと見ていることに気がついた。

 不思議になって首を傾げた。

 もしかしたら……わたしの顔になにかついてる?

 慌てて顔のあちこちを手でたしかめたが、なにもついていないようだ。

「あははっ! おもしろいね」

 そんな様子を見ていた男性が、わたしを見て笑った。

「あんまりこっちばかり見てるから、なにかついているのかと思って」

「ごめんごめん。いや、かわいいなぁと思って」

「か、かわいくなんてないです」

 慣れないことを言われて恥ずかしくなり、手にしていた箸を置いて思いっきり否定した。

「そうかな? 俺にはすごくチャーミングに見えるけど。たしか君は山科瑠璃ちゃんだったよね。お隣の子はお姉さん?」

「あ……いえ」

 大人っぽい顔立ちに加えて仕事柄バッチリメイクをしている瑠衣と、幼い顔つきで仕事柄ほとんどメイクをしていないわたしはよく姉妹逆転して間違われる。

 しかも今日は合コン慣れしている瑠衣のほうが、余計に年上に見えてもしかたのないことだ。
「あの、実はわたしのほうが姉でして。童顔が悩みなんですよね」

 苦笑いをしながら男性が同意する。

「俺も童顔。これでも結構いい歳だしね」

 自虐めいた言葉で、肩をすくめる男性。

 そのときになってわたしはしっかりと彼の顔を見た。

 マッシュヘアの前髪からの覗く目は、くっきりとした二重で長いまつげに綺麗に縁取られている。すっと通った鼻筋に、少し口角のあがった爽やかな口元。それらが収まった顔はものすごく小さい。

 はぁ……ものすごいイケメンだなぁ。まあ、和也くんには遠く及ばないけれど。

「えーっと……失礼なんですけど……」

 さっきの自己紹介で名前を聞いていたはずなのに、自分の順番が回ってくることが気がかりで、彼の名前をまったく覚えていなかった。
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