溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「ここ、いいかな?」

「え?」

 声をかけたきたのは、君島さんだ。

「あ、でもそこは瑠衣の席――」

 そこまで言うと、君島さんはテーブルの端を指差した。

「あっちで、盛り上がってるみたい。だからあぶれた者同士、一緒に飲もう?」

「あ、はい」

 そう返事はしたものの〝あぶれた〟という表現は正しくない。だってさっきから君島さんには女性たちの熱い視線が向けられているのだから。そして隣に座るわたしには鋭い視線。別に好きでこうなったわけじゃないのに、どうしたらいいんだろう?

 困っているわたしとは反対に、君島さんはまったく気にしていないようだ。思い切って聞いてみた。

「あの、たぶんですけど」

「ん? なに?」

「他の女性はきっと君島さんとお話ししたがってると思いますよ」

「うん、そうだろうね」

「え!? だったらなんでここに?」

 気がついているのならば、そっちに行けばいい。

「俺が話をしたいのは、君だから?」

 そうなんですね……って、簡単には受け入れられない。

 君島さんの顔がぐいっと近づいた。それを見たまわりの女性の目がするどく光る。

 こ、怖い……。どうしよ。

「あの、わたしそんなおもしろい話できませんよ?」

「そう? でも大丈夫。勝手に俺が楽しむから」

 小悪魔のように微笑んだ君島さんの顔を見て、これは諦めるしかないと思った。きっとわたしがなにを言ったところで、ここから動く気はないようだから。

 わたしが諦めたのが伝わったのか、君島さんは自分の持ってきたグラスを手にあれこれと話をしてくれた。

 最初は緊張していたけれど、君島さんの話が興味深くてまわりのことも気にならないほど、話に夢中になった。お互い医療に携わる仕事をしているせいか、話が盛り上がった。
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