溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 ――カシャ

「えっ? 撮ったんですか?」

 君島さんがスマートフォンを掲げたと思うと、あっという間にシャッター音がした。画面を確認しているので、横から覗くととてもじゃないけれどかわいいと言えない自分がいて慌てる。

「け、消してください」

「いや、無理。かわいいから待受けにするね」

 君島さんが先に立ち上がった。

「あまりここにいると、二次会に連れて行かれそうだから先に失礼するね。写真は送るよ」

「え? ちょっと待って」

「あはは、お疲れさま。また会おう」

 最後に最高の笑顔を残して、君島さんは帰っていった。

 わたしもバッグを持って帰ろうと瑠衣を探そうとしたが、その必要はなかった。すぐに向こうからわたしの方へとやってきたのだ。数人の女性たちとともに。

「あ、瑠衣もう帰るよね? タクシー捕まえる?」

「帰る、帰る! でもその前にお姉ちゃん君島さんの連絡先手に入れたの?」

 すごい勢いの瑠衣に一瞬ひるむ。

「う、うん。交換しようって言われたから」

「嘘ー! 信じられない」

 瑠衣とその友達が声をあげた。

 個室を出て出口に向かいながらも話は続く。

「え、なにどういうこと?」

「いい? お姉ちゃん。あの君島さんってみんなが狙ってる優良物件なわけ。医者であのルックスでしょ? それにスマートな身のこなし。もう女の子が放っておかない人種なの」

 うん。たしかにそうだ。

 わたしがうなずくと、瑠衣が話を続けた。

「遊んでるかと思いきや、女性からの誘いはのらりくらりと笑顔でかわして全然応えてくれないの。だから連絡先を交換するなんて今までなかったことみたい」

 どうやらわたしの隣から移動して幹事の男性に色々と話を聞いていたようだ。

「だったら、どうしてわたしと交換したの?」

「それよ! ほんとになんで? 最大の謎だわ」

 妹なら、もう少し姉を持ち上げてくれてもいいと思うの。不満だけど、連絡先を交換したときの話をした。
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