溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 そこで瑠衣は急にわたしの腕に自らの腕を絡めてきた。

「わたしたちは、これで。姉がどうも酔っちゃったみたいで」

「え、なに言ってるの。わたし――」

「いいから、話を合わせて」

 小声で言われて、わたしは仕方なくまわりに苦笑いで応えた。

「そうなんだ。瑠衣ちゃんともっと話したかったのに」

 幹事の男性があからさまに残念そうな顔をした。

「ごめんなさいね。また今度飲みに行きましょう」

 にっこり笑って幹事の男性からの誘いを断ると、瑠衣はタクシーを止めて先にわたしを乗せた。

「では、みなさん楽しんできてくださいね~」

 わたしと話すときとは違うかわいらしい声を出した瑠衣は、笑顔で手を振りタクシーに乗る。
行き先を告げて車が動き出すと、「はぁ、疲れた」と言って、シートにもたれかかった。

「ねぇ、わたし全然酔ってないから、瑠衣は二次会行ってもよかったんだよ?」

「え? いいのいいの。わたしも帰りたかったし」

「そう? だったらいいけど。瑠衣はいい人いた?」

「うーん。ふたりで会いたいって思うような人はいなかったかな。あーあ。時々お姉ちゃんが羨ましいよ」

 ちらっと瑠衣がこっちを見た。

「一途に中村さんのこと好きで。どう考えても無理な相手なのにどうしてそこまで好きでいられるのか、わたしも人生で一度でいいからそういう恋愛したいな」

 大きなため息をついて、窓の外を眺めている。いつもわたしの恋愛を否定しているのにどうしたんだろう。

「ねえ、瑠衣なにかあったの?」

「ううん。別に。わたしもお姉ちゃんみたいに人生かけられるような恋愛がしたいなって。そう思っただけ。でもわたしには無理かな」

 こちらを向いてさみしそうに笑っている。

「わたしみたいな片思い、全然おすすめしないけど。だけど、だけど……瑠衣も本気で好きになれる人が現れるといいね」

 わたしは瑠衣に体を寄せた。すると瑠衣はわたしの肩にゆっくりと頭を乗せる。そこから家に着くまでお互いなにも話さなかった。

 もしかしたら、片思いでも全力で好きになれる人がそばにいるなんて、わたしは幸せなのかもしれない。

 そう思った夜だった。
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