溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「あの、どうも」

 気まずくてまともに顔を見ることができない。まさかこんなところで再会することになろうとは。

「こんにちは」

「ええ、あの。はい」

 動揺してまともな返事ができない。和也くんに合コンに行ったことを知られるわけにはいかないのだ。

「実はこのあいだ」

「あわわわわわ……自己紹介がまだでしたね」

 わたしは慌てて君島さんの話を遮った。

「はじめまして! はじめまして! 山科瑠璃です」

 大事なことなので二回言った。どうにか相手に伝わりますように。

 祈りを込めた視線を向けたのが功を奏したのか、君島さんがにっこりと笑った。

「はじめましてじゃないよね、瑠璃ちゃん」

 ……だめだ、全然伝わってない。

「瑠璃ちゃん……だと?」

 和也くんの鋭い視線が、わたしに向けられた。

「いやあのね、和也くん。これには色々とあってね」

「色々ってなんだ。説明してもらおうか」

 椅子をくるりと回して、わたしを睨む。

「あの、えーっと」

 どうにかごまかす方法がないものか、ない知恵を絞る。しかしいい案がひらめく前に、君島さんが口を開く。

「これ見てください。この間一緒に飲んだんです。合コンでね?」

 君島さんは自分のスマートフォンを取り出すと、みんなに向かって画面を見せた。そこには彼が帰る間際に撮ったわたしとのツーショット写真が表示されている。

「やだ、待って」

 どうにかみんなに見られないように慌てて飛び出したが、君島さんのスマートフォンは和也くんの手の中にあった。
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