溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 思わず唇を噛んだわたしを見て、和也くんはなぜか満足そうだ。

「そんな顔するなって。そもそもなんでそこまでして俺なんだ? 俺、これまでお前に気を持たせるようなことしてないつもりだけど」

「たしかにそうだよ。でもそういうはっきりとしてるところも好きだなって思っちゃうの。仕方ないじゃない」

 開き直った態度に、和也くんが吹き出した。

「あはは。そうか、だったらそのままでいるしかないな。かわいそうだけど」

「かわいそうだって思うなら、少しくらいわたしの思いに応えてくれてもいいんじゃないの?」

 ヤキモチをやいてほしいだなんて、だいそれたことは期待しない。でもほんの少し優しくしてくれてもいいじゃない。

「ああわかった」

「じゃあ、つき合ってくださ……痛いっ!」

 期待で目を輝かせたわたしに、和也くんは思い切りデコぴんをした。

「調子に乗るんじゃない。まあ、でも飯でもおごってやろうかな」

「本当に? うれしい! この間のラーメン屋さんおいしかったよね」

「あ? またラーメンでいいのか? 今日は気が向いたから、いい店に連れて行ってやろうと思ってたのに」

「嘘? 本当に?」

 こんな幸せなことってある? これってやっぱり合コンに行った効果が、少しは出たってことなのかな?

 うれしすぎて顔がにやけてしまう。

 しかしそこで和也くんのスマートフォンに電話がかかってきた。ディスプレイを見た瞬間彼の顔が険しくなる。

 あ、またあの顔。

 わたしに背を向けて電話をはじめた。ここ最近電話がかかってくると難しい顔をすることがある。なにか彼にとってよくないことがあるのだろうかと、心配になる。

 電話を終えた和也くんの顔はまだ曇ったままだ。それでわたしは次に彼が言うことを察した。
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