溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「大丈夫ですよ。食事は今度で」

「え、いや、でも」

「大丈夫ったら、大丈夫です。今和也くんが大変だってことくらいわかるから。わたしが何年和也くんのストーカーやってると思ってるの?」

 自慢になるようなことではない。けれど彼の変化には誰よりも敏感だという自負がある。

「そんなに聞き分けがいいと後が怖いな」

「もちろん、今度フルコースおごってもらうつもりですから……だから今は、行って。ね?」

 和也くんはわたしに近づくと、ぽんっと頭に手をおいた。

「悪いな、サンキュー」

 にっこりと笑った彼の顔を間近で見ることができた。それだけでも幸せに感じてしまう。それなのに……。

 和也くんは大きな手のひらをわたしの額に添えて、前髪をかきわけた。

 わたしの額があらわになる。

 そしてその大きな体を傾けて、そこに唇を落としたのだ。

「……っ」

 一瞬呼吸ができなくなった。目を大きく見開いたままわたしは固まった。

 え、ちょっと待って。いったいなにが起こったの?

 状況の把握がまったくできてない。頭の中はパニックだ。

「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」

「え、あ、うん」

 そう答えるだけで精一杯だった。

 まだ固まったままのわたしを置いて、和也くんは急いだ様子で車を発進させてその場からいなくなってしまった。

 わたし……キスしたの? 和也くんと?

 思い返すだけで、胸がドキドキして張り裂けそうだ。胸を押さえてなんとか呼吸を整えた。しかしニヤニヤする顔はどうすることもできない。

 嘘、わたしが和也くんとキス!?

 額へのキスだ。瑠衣に話したらそのくらいで……と言われるかもしれない。それでも長く思い続けてきた気持ちがもしかしたら叶うかもしれない。

 そんな予感に、期待せずにはいられなかった。
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