溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「ふふふ……ふふふふっ」

 出勤後、クリニックの受付カウンターを鼻歌まじりで拭いていく。ここ最近のわたしは、常にごきげんだ。

 だって……キスしちゃったんだもん。

 思い出してニヤける顔を、引きしめるけれど、またにやけてしまう。こんな感じで毎日過ごしている。

「ねぇ、またニヤニヤしてるよ?」

「えっ……あっ。君島先生おはようございます」

 顔を引きしめて挨拶をした。

「わざわざ真面目な顔にしなくてもよかったのに。ニヤついてる瑠璃ちゃんもかわいいよ?」

「え? 君島先生、いい加減からかうのやめてもらえませんか?」

 いつものおふざけに、わたしは少々呆れ顔だ。しかし君島先生はそんなことおかまいなしだ。

「え? 俺思ったことしか口にしないよ? 瑠璃ちゃんはいつもかわいいね」

「もう、いいです!」

 のれんに腕押し、糠に釘、豆腐にかすがい、とはまさにこのことだ。わたしがなにを言ったところで、君島先生はまったく気にしない。バカらしくなって、会話を打ち切ることが日常になっている。

 話を切り上げて、わたしはさっさと掃除に戻った。すると荷物を片付けた君島先生も雑巾を持って、手伝ってくれる。

 そういうところは、よく気がついて助かるなぁ。

 ふたりで手分けして綺麗にしていく。

「痛っ」

 病気で気持ちを塞いでいる人に少しでも明るい気持ちになってもらいたくて、カウンターにはいつも花が生けてある。

 今はかわいらしいかすみそうも一緒に生けられているのだけれど、それがうっかり目のあたりにあたった。そしてそのはずみにコンタクトレンズがずれてしまった。
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