溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「大丈夫? どうかした?」

 わたしの声を聞いた君島先生が慌てて駆け寄ってきて、わたしの顔を覗き込んだ。

「平気です。ちょっとコンタクトがずれただけなので」

「いいから見せて」

 君島先生がわたしの顔を自分の方へ向かせて、目の辺りをじっと見ている。指先が頬に触れて少しくすぐったい。思わず体が動いてしまう。

「こら、診察中だからじっとして」

「ごめんなさい」

 別に診察なんて必要ないのに、そう言われるとなぜだか素直に従ってしまう。職業病なのかもしれない。

「ん~傷はないから大丈夫だとは思うけれど」

「だから、コンタクトがずれただけなんですって。だから早く直させてください」

「ああ、そうだったね。あはは」

 そうは言うけれど、まったく離してくれない。

「あの、先生?……ひゃあ」

 あげくのはてに君島先生は、わたしの頬をひっぱって遊びはじめた。

「ん? あはは……おもしろいなぁ」

 やってるほうは楽しいかもしれないが、やられたほうはたまったもんじゃない。どんな情けない顔をさらしているのか想像すると、恥ずかしさに顔が赤くなる。

「あ、赤くなった。かわいいなぁ」

「もう! いいかげん離してくださいっ」

 暴れて抵抗しようとした瞬間「なにやってるんだ!」という声が聞こえた。

「ん?」

 わたしは君島先生の横から顔を覗かせる。そこには出勤してきた和也くんと真鍋さんが立っていた。

 和也くんは明らかに不機嫌そうにしているのに対して、真鍋さんはニヤニヤとおもしろがるように笑っている。

「だから、なにやってるんだって、聞いてるだろ」

 和也くんがずんずんと歩いて来て、君島先生の肩を掴んだ。

「なにって、診察ですけど。彼女の目に、ここの花が当たったみたいで」

 君島先生が花瓶に生けてある花を指差す。

「なんだと、大丈夫なのか?」
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