溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「えーやだ、お姉ちゃん! どうしちゃったの?」

 インターフォンを押して、名前を告げると勢いよく玄関の扉が開いた。中から現れたのは、瑠璃の話によく出てくる妹だろう。

「少し飲みすぎたみたいです。眠ってしまったので、こちらまでお送りしました」

 俺が声をかけるとはじめて、妹の視線がこちらに向いた。

「え、あ、中村さんですよねっ? 姉がいつもお世話になってます!」

「いえ、こちらこそ」

 こちらを観察するような視線。おそらく瑠璃が妹にもあれこれと話をしているに違いない。

「お母さーん。ちょっと来てー!」

 玄関で母親を呼ぶと「なに? 誰か来たのー?」といいながら、母親らしき人が現れた。

「お母さん、こちら中村さん。ほら、お姉ちゃんのっ!」

「ああ、あの!」

 勤め先の上司だという表現をしないあたり、瑠璃が俺のことをどういうふうに家で話をしているのかがわかる。

 母親も好奇心いっぱいの視線を俺に向けてきた。

 まいったな……。これで親父さんまで出てきたら……。

「おい、なにをみんな騒いでいるんだ?」

 ……出てきた。

「あの、クリニックで瑠璃さんと一緒に働いている中村です。彼女にはいつもお世話になってます」

 瑠璃を背負っているので、頭をほんの少し下げるだけにとどまった。

「あ、あああああ! 君が、いや悪いね。娘が世話になって」

「いえ、そんなことは」

 ないことはない。現状まだ瑠璃をおぶったままだ。

「母さん、ぼーっとしてないで、早く先生にお茶を――」

「ああ、そうだったわね。狭いですけど、どうぞ」

 中に招き入れようとする家族に慌てた。
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