溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「いえ、私はここで。今日はお嬢さんをお送りしただけですから」

「そんな、でもせっかくですから」

 まだ引き留めようとするご両親。助け船を出してくれたのは妹だ。

「もう遅いし、悪いわよ。それより早くお姉ちゃん下ろしてあげなきゃ、いつまで中村さんにおんぶさせておくつもり?」

「ああ! たしかにそうだ。申し訳ありません」

 父親が慌てた様子でやってきた。俺は背中を玄関に向けて、彼女を上がり框(かまち)に座らせた。

 すると瑠璃はそのままそこに横になろうとする。それを慌てて両親が支えた。

「もう、本当にこの子ったら、すみませんでした。ご面倒をおかけして」

 母親が深く頭を下げた。

「いえ、こちらこそもう少し早くに止めておくべきでした。申し訳ありません。脈などを確認しましたが酔って眠っているだけのようです。しばらく様子を見てあげてください。では私はこれで失礼します」

 そう伝え頭を下げ、家族に見送られながら玄関を出た。

 結構な時間背負っていたので、あちこちが痛い。首をポキポキと鳴らし歩いていると「中村さん」と呼び止められた。

 足を止めて振り向くと、そこには瑠璃の妹が立っていた。

「なにかありましたか?」

 瑠璃の容態が悪くなったのかと思い尋ねる。

「いえ、姉のことじゃないんです。って違うか、姉のことなんですけど」

 その様子から体調のことではないと推測し、少しほっとした。

「遅い時間なのに、呼び止めてしまってすみません。以前から一度お話がしたいと思っていたんです。わたしは山科瑠衣といいます」

 瑠璃に比べて物事をはっきり言うタイプのようだ。俺は「どうぞ」とだけ答えて、彼女に話の先を促した。

「単刀直入にお聞きしますけど、姉のことどう思ってるんですか?」

 まっすぐにこちらを見据える目に、真剣さが感じられる。きっと姉を思ってのことだろう。

「それは瑠璃さんに言うことで、たとえ君が彼女の妹でも答えるつもりはない」

「でも……だったら!」

 俺の答えがよっぽど不満だったのだろう。瑠衣さんは俺の言葉を遮った。

「だったら、きちんと意思表示してあげてください。ダメならダメ、きちんと向き合うなら向き合うって。姉ってバカがつくくらい一途だから本当にはっきり言わないとわからないんです。でももうそろそろ不毛な片思いに終止符を打つべきだし、本人だって今回が最後だって覚悟して――」
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