溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「……キスしたくせに」

 クリニックの待合室で、わたしの額にキスをした。じゃああれはなんだったのだろうか。少なくともこれまでの和也くんを考えると社交辞令であんなことをするタイプではない。

 しかし和也くんは話題をすり替える。

「冷静じゃないときに話をしても、無駄な時間を過ごすだけだ。もう少し落ち着いているときに話す」

「どうして? お見合いするかどうか、知りたいのはそれだけなのに、どうして教えてくれないの?」

 わたしが訴えかけても、和也くんは黙ったまま運転している。

 その落ち着いた態度に、わたしは一層腹を立てた。

「和也くんはいつもそうだよね。冷静沈着。当たり前か、わたしのことなんて一ミリも好きじゃないんだもん」

 醜い感情を乗せた言葉が、次々と出てくる。

「もういい。別に和也くんじゃなくったって、わたしのこと好きだって言ってくれる人もいるんだから、君島先生とか……きゃあ」

 いきなり車が脇に停められた。急なことだったので、車体が揺れる。

「な、なに?」

「今、なんて言った?」

「なにって……え?」

「だから、お前君島に好きだって言われたのか?」

 あまりにも真剣な眼差しに、たじたじになる。それまでいつもと変わらない様子で運転していたのが嘘のようだ。

「言われたけど……」

 わたしの返事を聞いて、和也くんは視線を斜め下にずらすとチッと舌打ちをする。

「い、言われたけど、それこそ和也くんには関係ないでしょ?」

「関係ない……だと? こんなに俺のことを追いかけまわしといて、関係ないはないだろ?」

 さっきわたしが言ったのと同じような話を和也くんがしている。

「でもいくら和也くんのことを好きでいたって、無駄じゃない。いつまでたっても和也くんにとって、わたしは関係ない人なんでしょう? もうこんな無駄な時間終わらせたい」

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