溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 感情が高ぶりすぎて、涙がにじむ。それでも一歩も引けないと、わたしは和也くんか目を逸らさなかった。

 そして和也くんもまた、わたしをじっと見つめている。

「俺のことを好きだった時間が無駄だって言うのか?」

 苛立ちを含んだ声色。なぜ彼が怒るのか理解できない。今までわたしがどれだけ気持ちを伝えても、応えてくれることはなかった。

 ここ最近わたしに構っていたのも、きっとただの気まぐれだ。そうでなければきちんと話をしてくれるはずだ。

「だってそうでしょ? いくら思ってもわたしの気持ちは届かない――」

 えっ……。

 和也くんの左手がわたしをぐいっと引き寄せた。至近距離に彼の顔を確認したときにはわたしの唇は彼に奪われていた。

「ん……っ」

 なにが起きているのか理解が追いつかない。目を開けていられなくてギュッときつくつむる。

 和也くんの右手がわたしの後頭部に添えられた。そしてそっと上を向かせるようにすると、より深いキスを与えられた。

 最初は噛みつくような激しいキスだった。何度も角度を変えて口づけられて、息継ぎもままならない。

 やっと彼の腕が緩み唇が離れたときには、わたしの息は上がっていた。

「な、な、なんでこんなこと……」

「俺を好きだった時間が無駄だなんて、二度とそんなこと言えなくしてやる」

「えっ……」

 彼の言いたいことの意図がつかめない。どういう意味なんだろう。

「お前が俺に捧げた時間全部、無駄にさせるつもりなんてないから、覚悟しろ」

「覚悟って、どういう意味で?」

 そんなふうに言われても、どう覚悟していいのかわからない。

 和也くんは混乱しているわたしを見て、にやっと笑った。それは意地悪なんだけど、とても魅力的で目が離せない。
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