溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 和也くんが家の近くで車を停めた。

「本当に、ここでいいのか?」

「うん。うちの前まで行くと、Uターンしづらいから」

 シートベルトを外したわたしは、和也くんの方へ向いた。

「あのね。どうしても確認しておきたいことがあるんだけど、いい?」

「ああ。なんでもどうぞ」

 彼は車のハンドルに両手を乗せてこちらを見ている。

 カッコいい顔にごまかされることなく、きちんと聞かないといけない。

「お見合いの話って、嘘なの、本当なの?」

「ああ、それか……どうしても聞きたいんだな」

 なんでも聞いていいと言っていたのに、途端に言葉を詰まらせた。

 どうしてそんなに言いづらそうにするのか、その態度が不安をかき立てる。

 しかし和也くんは、すぐにわたしの不安に気がついてくれたようだ。

「そんな顔するな。たしかに見合いの話は出てる」

「嘘! じゃあ四つ葉銀行の頭取の娘さんと?」

「なんだそんなに詳しく知ってるのか?」

 さすがに相手を知っていたことに、和也くんも驚いたようだ。瑠衣の情報網はやっぱりあなどれない。

「ああそうだ。ただ俺は断るつもりでいた。ただ簡単に断れない事情もあるから、中途半端なことは言えないって思った。相手が瑠璃だから余計に」

「わたしだから……どうして?」

 好きだからなんでも話してほしいと思うのは間違っているのかな?

「心配させたくない。見合いをしてもしなくても結果は同じ。俺はもう瑠璃以外の女は見えないから」

「……っ」

 熱のこもった眼差し。それが冗談でないことが伝わってくる。心臓が痛いくらいに脈打つ。

「ちょっと待って。本当の本当に、和也くんなの? 別人じゃないよね?」

 思わず疑ってしまうのも無理はない。今までと態度が全然違うのだから。

「なに言ってるんだよ。まったく」

「きゃあ!」

 和也くんがわたしの手を取って引き寄せた。ぐっと距離が近付き思わず声をあげてしまった。
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