溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「ほら、よく見てみろ。別人に見えるか?」

 どこからどう見ても和也くんだ。こんなにカッコいい人、他に知らない。

「見えません」

 心臓がドキドキしすぎるから、わたしは彼から顔を背けた。ふっと笑う声が聞こえてきてなんだか悔しい。

「まあとにかく、見合いに頼らなくても資金の目処はついた。だから瑠璃が心配しなくていい」

「本当に!? よかったぁ」

 わたしにはよくわからないが、見合いを断ることができそうとのことだ。ほっと一安心した。

「聞きたいことは、聞けただろ? そろそ帰らないと。もう随分遅い」

 車の時計を確認すると、二十三時半を過ぎたところだった。

「あの、わたしだったらまだ時間大丈夫だよ?」

 懸念材料が消え安心したわたしは、車から降りるのが惜しくなってしまった。

「大丈夫じゃないだろ。妹さんが心配してたんだから、今日はもう帰れ」

 しかし和也くんは、まったく取り合ってくれない。

「でも、でもせっかく両思いになれたんだから、もうちょっといいでしょ?」

 顔を覗き込んで懇願するが、首を縦に振ってくれない。

「ダメだ。わがまま言うんじゃない」

「もうちょっとだけ、ね?」

 どうお願いしても「ダメだ」の一点張り。

「もう、やっぱりわたしの好きのほうが大きいんだ」

 わかっていることだ。長年思い続けてきたわたしの愛はかなり大きく育っている。しかし両思いになったせいか、少々不満に思えたのだ。

 和也くんは不満げなわたしを見て、クスクスと笑った。

「いや、そうでもないかもな」

「えっ?」

 聞き間違いかと思い、聞き直す。

「このまま連れて帰りたいって思ってる。だからそうしてしまう前に、早く車から降りろ」

「それって……」

 色んなことを想像してしまい、思わず赤面する。
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