溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「来ちゃった……」

 カフェを出たわたしが向かったのは、中村総合病院。

 会えると思うと、一秒でも早く会いたい。我慢ができずに待ち合わせの場所を決める前にここにやってきてしまった。

 職員用出入り口はすでに調べてある。わたしはそこがよく見える場所で今か今かと彼が出てくるのを待つ。

 男女数人が出てきた。しかし和也くんはまだ出てこない。時間は三十分ほど経過した。

 張り切ってちょっと早く来すぎたかなぁ。

 会えるとなると、待つ時間さえ幸せだから、まったく苦にはならない。けれど会いたい気持ちは抑えきれずにワクワクしてしまう。

 そわそわして和也くんを待っていると、背後から声がした。

「あ、その人です」

「わかりました」

 ふりむくとそこには警備員と、綺麗な女性が立っていた。しかしふたりとも険しい顔をしている。

「なにかあったんですか?」

 びっくりして思わず尋ねた。

「なにかあったじゃないですよ。あなたここでなにをしてるんですか?」

 え? もしかしてわたし怪しまれてるの?

「え、あの。えーっとですね」

 たしかに冷静になってみれば、素性のわからないものがずっと職員通用口の前で立っているというのは気味悪い。

「あなた、ずっとそこにいるわね。なにか用事があるの?」

 一緒に来た女性にも追及され、しどろもどろになる。

 ここで和也くんの名前を出すべきじゃない。勝手にやってきて待っていただけで、こんなことで迷惑をかけたくない。

「あの、すみません。でもわたし決して怪しいものじゃ……」

「ドラマでもそういう人は大体怪しいものですけどね」

 警備員の冷たい指摘。たしかにそうだけど……。

「あの、ですからちょっと人を待っていてですね」

「人って誰、どこの科?」

 女性に突っ込まれてますます窮地に立たされた。

 万事休す。そう思った瞬間――。

「姉貴、どうかしたのか?」
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