溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 その声は紛れもなく和也くんだ。しかしこんなトラブルを起こしてしまって、気まずくてすぐに彼の方を見ることができない。必死になってうつむいた。

「この子がずっとここに立っていてね、警備員さんと話をしていたの」

「この子って……おい、瑠璃。こんなところでなにやってるんだ」

 わたしはゆっくりと顔を上げる。そこには驚いた顔の和也くんがいた。

「あはは。あの……来てしまいました」

「お前は……別にここで待っていなくてもいいだろ」

「でも、ここが一番早く会えるからって……」

 顔を上げられないわたしの耳に、和也くんの呆れた声が届く。

「それでもだ。次からはどこか店にでも入って待ってろよ」

「はい。ごめんなさい」

 肩を落として謝ったわたしの頭を和也くんがポンポンと叩いた。

「ねえ、和也。こちらの方はお知り合いなの?」

「ああ。紹介する、山科瑠璃さんだ。俺の彼女」

 彼女だなんて……うれしすぎる。

 わたしはニヤニヤする顔で頭を下げた。

「はじめまして、山科瑠璃です」

 そこではっとする。

 女性が〝和也〟と言った。そういえばさっき和也くんも女性のことを〝姉貴〟と言っていた。と、いうことは……。

「あの、もしかして……和也くんのお姉さん?」

「ああ、そうだよ」

 違うと言ってほしかった。彼のお姉さんに不審者と間違えられるなんて悲しすぎる。

「この度はお騒がせしてすみませんでした」

 あらためて頭を深く下げた。

「こちらこそ、ごめんなさいね。和也も彼女ができたなら、言ってくれてもいいんじゃない?」

「ガキじゃあるまいし、姉貴にいちいち報告するほうがおかしいだろ」

「たしかにそうね。仕事はもう終わり? これからデート?」

「そんなところだ。姉貴も早く帰ってちゃんと寝ろよ」

「……うん。大丈夫よ」

 昌美さんは元気がない笑顔を浮かべた。色々とあったので心労が重なっているのだろう。

「じゃあ、行くな」

「うん。瑠璃さん。次はゆっくりお会いしましょうね」

「はい。是非よろしくお願いします」

 深く頭を下げたわたしに、昌美さんは笑顔を向けてくれた。
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