【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜
「何か棚橋らしくないって、絶対普通の人と付き合った方が楽しいよ」
私の楽しいは、雄太に決められる事ではない。
ハッキリとそう言おうと思ったら、バックの中に入れている携帯が着信音を刻んでいる。
見なくても分かる、誰からの着信か位は。
やっぱりこんな事をしていてはいけない。そう雄太の腕を振りほどこうとした時、だった。
きゃあ!と女性の悲鳴に似た声が騒がしい店内に響く。そのざわめきは段々大きくなっていき、それにつれて嫌な予感がした。
それでも雄太は私の腕を掴んだまま、真っ直ぐにこちらの視線を捉えていた。
「自分と全然違う世界の人間と一緒に居ても価値観が違って疲れてしまうだけだよ」
「雄太…それはちが…」
違う――そう言いかけた瞬間、乱暴に空いてる腕が掴まれて、雄太と私の手は離れた。
肩越しに温かい温もり。そしてよく知った香りを不意に感じた。ゆっくりと顔を上げると、そこにはサングラスをした真央が立っていた。
「誰の女に気安く触っている?!」
怒鳴り声が店内をこだまする。
ど、ど、どうしてここに?!私居場所言ってない!けれどサングラスをしていても分かる。その目の奥は絶対に怒りで満ち溢れている。
店内のざわめきと共に、女性の悲鳴に似た声が響き渡り騒然となった。
ゆっくりとサングラスを外すと、「あ」と雄太の小さな声が漏れて、唖然とした表情を見せる。それでも真央は一切引かなかった。
どうして彼がここに居るのか、何故に居場所がバレてしまったのが、そんな事は今はどうでも良い。
傷つけない為についた嘘は、後の祭り。
結果真央を更に苦しめる事になってしまうのだ。この世界に優しい嘘はきっとない。