【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜
「そんな風には、思ってない…」
それだけを言うのに精いっぱいだった。今は何を言っても嘘くさくしか聞こえないような気がして
そんな私の煮え切らない態度が、更に真央を苛つかせていく。
「お前との将来を夢見てたのは俺だけだったんだな…。
大学を卒業したら一緒に暮らそう、とか…婚約をしようと勝手に浮かれていたのは、自分だけだったんだな…」
「違う!」
「何も違わない!お前は結局芸能人である俺との恋愛に疲れてたんだろう?!
それならそれでいい…!お前の思う通り全部白紙に戻してやる!」
「真央、待ってよ。ちょっと落ち着いて…!」
「うるさい!お前の話なんてもう何も聞きたくない!お前の顔など……もう見たくはない!」
終わった。その瞬間思った。
怒りよりも悲しい目をしたのが印象的だった。
自分の想いを吐き出すだけ吐き出して、静まり返る車内の中で大きなため息だけが響き渡った。
もう私が何を言った所で聞き入れてはくれないだろう。信頼を取り戻すのは、言葉だけじゃとても難しくて。
ゆっくりと動き出す車の中で、もう互いに口を開く事が無かった。そして寮の前で車は止められて、無言で降りろと促される。
ゆっくりと降りて、運転席で顔を背ける真央を見つめても、言葉は返ってこない。
「真央…降りないの?」
「俺は暫くマンションの方で過ごす。坂上さんにもそう連絡しておく」
暫くっていつまで?もう話を聞いてくれないの?…私達、こんな所で終わっちゃうの?
訊きたい事は沢山あったけれど、言葉に出来ない想いは空に消えていくばかり。
冷たく閉められた車の扉と共に、エンジンがかかり遠ざかって行く。西の空に分厚い雲がかかって、今にも雨が降り出しそうな夜。
ひとり取り残されたように立ち尽くして、その寒さに身をすくめる。通り過ぎて行った冬の風は何も言わずに、夜のとばりへ消えて行った。