【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜
本日のメニューは、丸ごとピーマンと鶏肉の煮物。小松菜としらすのごま油炒め。きのこと人参のお味噌汁だ。わざとな訳ではない。
食べ物は、体の健康だけではなく心の健康の作ってくれるものだと信じている。真央に出会ってから、それを余計意識するようになった。
そして料理位しか私に出来る事はないのだから。私は花乃さんのように真央の仕事のオファーを取ってくる事は出来ない。
トントンと規則的な包丁の音が刻まれていく。どちらからともなく何も言い出せずに時だけが悪戯に過ぎていく。
その時だった。
「あ、お疲れ様でーすッ。真央寮に戻って来ていたのね」
声高らかに食堂に入って来たのは、花乃さんだった。思わず包丁がずれて指を切ってしまう所だった!
ソファーで項垂れていた真央はぎょっとした顔をして、慌ててその場から立ち上がった。
「花乃さん、どうしたの?」
「あはは~…ちょっと営業先に行ってきて、寮の近くまで寄ったから。
真央今日は午前中で仕事も終わりだったから寮にいるかなーと思って
あ、静綺ちゃん、こんにちは。」
私に向かってにこりと挨拶をする花乃さん。
やっぱり綺麗な人で、その手には何やら袋を抱えている。そこからは良い匂いがしていた。
「こんにちは。」
「それにしても外は寒いわねぇ。
はい、真央の好きなチキンとピザ買ってきたよ」
そう言って花乃さんは袋を掲げ、微笑んだ。 真央は少しだけ気まずそうな顔をしたけれど「ありがとう」と小さくお礼を言った。
別に花乃さんはグリュッグの社員であるから…グリュッグの寮に入って来るのは何ら不自然じゃないけれど……。
作った料理をタッパーに移すと何故か途端に惨めな気持ちでいっぱいになる。