ガラスの靴の期限
ただ、気持ち悪いと思った。
それでも、そうせずにはいられなかった。
「樹」
「っ、ゆ、ずる、」
バイト終わりの帰り道。大通りを通るより八分短縮出来るからといつも通るホテル街。きらびやかとは言い難い、目に悪いであろうネオンばかりのそこで、たった今、事を終えて出て来たであろう男と女に向かってどうにか名前を吐き出せば、呼ばれたそいつは俺に視線を向けるや否や肩と声を震わせた。
「……言い訳、あんなら聞くけど」
「……」
「……」
「……」
「……帰るわ」
何も言わない、ただ目玉をきょろきょろと動かしてばかりのそいつと俺は付き合っていると、俺とそいつの間柄という項目には、恋人というラベルがべたりと貼られているのだと思っていた。
「じゃあな、クズ野郎」
名前も知らない女を睨み付けてから、踵を返した。
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