若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
春妃は苦々しい顔つきでチェアーを降りると勢いに任せて椅子の足を蹴り飛ばし、カツン!と響くその音に周囲の視線が集まってきて、捨て台詞も言えなくなり、さっさとバーを後にした。



「あー、スッキリした!」


積年の恨みから解放されたような気分で一気に胸がスッとした。
しかし、それも一瞬、いきなり興醒めし彼女の顔が思い浮かんだ__。



「……香織ちゃんは、君には渡さない。彼女を幸せにするのは僕の役目だ」


軽蔑の眼差しで彼は俺にそう言った。

角川春妃の暴言や妨害に屈する気持ちは全くないが、彼女に嫌われるのだけは、何とか避けたいと感じてしまった。


「……あいつから話を聞かされる前に何とかしておきたい。…でも、俺が呼び出しても、彼女は会いに来てくれるかな……」


弱気になりながらも、ロックを呷って電話をかける。

初めて電話口で話した彼女は俺の声に驚き、「酔ってるの…?」と窺うように訊ねてきた__。



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