若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
ホテル・ビレッジへ着いた私は、彼のスマホに連絡を入れたが出てもらえず、迷った挙句にフロントへ向かい、「橘悠大さんという方が、こちらのホテルに泊まっていますか?」と訊ねた。



「ええ。ご滞在中ですよ」


フロント係は愛想のいい笑みを浮かべながら答え、「失礼ですが、大泉香織様でしょうか?」と訊ね返してくる。


「はい。そうですけど…」


何故、名前を?…と不思議に思いつつ答えると、彼は後ろの棚からカードキーを取り出し、スッと差し向けてこう言った。


「橘様よりご伝言をお預かりしております。大泉様がいらしたら、直接お部屋の方へ通して欲しい…とのことでした」


こちらをどうぞ…と差し出してくるカードキーに戸惑い、窺うようにそれを見た。


(カードキーって、どういうこと?さっきはそんな事、何も言っていなかったのに)


間違い…ではないよね、とカードキーを見つめ、ちらりとフロント係に視線を向ける。

彼は微笑んだままこちらの様子を確かめていて、これを受け取らなければきっと変に思われるだろう…と思い、指先を伸ばした。


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