若きビル王とのエキサイティング・マリッジ

頭に擦り寄ってくる彼は、ぎゅっと腕に力を込め、溜息を吐き出す。そして、力のない声で囁くように続けた。


「…確かに、俺は着物のことは何も知らない。幼い頃から母に、『着物には沢山の人が手を掛けられているのよ』と教わってきたけれど、実際にそれがどんな工程を辿り、一枚の着物に仕上がるかまでは聞いたことがない。
この先もきっと、それを知るチャンスは少ないだろうし、君の努力もどこまで理解できるようになるかはわからない。老舗の暖簾を守っていく難しさも、百パーセント理解できるかどうかは不明瞭だし、そういった意味では、あいつには敵わないものがあると思う」


ぎりっと奥歯を鳴らして悔しがる彼は、自分を落ち着けるように深い息を吐き出した。


「…そういうふうに考えたら、俺にも少なからずコンプレックスはあるよな。全てを理解し合えるかどうかもわからない君と結婚を前提に…なんて、よく言ったと思う……」


自信を無くすように声を落とした彼は、頭を項垂れてくっ付け、一呼吸置いて再び上げた。



「…でも、香織」


名前を呼ぶと、指で顎を押し上げ、私を上向かせてくる。

彼と目線が合うと、さっきのキスが思い出され、かぁっと頬が熱くなった。