若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
「お前、余計なことを聞いてるな。…でも、まあそうだな。確かに着物は老舗の呉服店だけあって、見事な振袖だったぞ」


白地に総絞りで描かれた桜の花柄は、母が見ればきっと良い品だと分かるのだろうが、さほど興味のない俺にとっては、ああ綺麗だな…くらいの印象でしかない。


「…いえ、お着物ではなく、お相手の方です」


話を繰り返す松崎は、どうしても相手の容姿が気になるらしい。


「そうだな。ぱっと見は驚くほど綺麗に見えた。けれど、それだけじゃなくて、何と言うか、真面目そうで探究心が強そうだった」

「えっ!それほどお話が弾んだのですか!?」

「馬鹿言え。さっき放置されたと言っただろうが」


体を揺り起こし、「お喋りはやめて仕事に入るぞ」と言えば、彼は残念そうに唇を歪め、もう少し聞かせて欲しそうな顔つきを見せるのだが……。



「…では、これからのご予定ですが」


パッと頭を切り替えたらしく、厚い手帳のページを開きながら今日のスケジュールを話しだす。

それを俺は耳に入れながら、さっき別れてきた女性のことを思い返し、ププッと吹き出しそうになるのを一生懸命に堪えていた___。


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