若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
流石は老舗呉服店の孫娘、普段から着物を着慣れているのだな、と感心させられ、その一方で、浮かんでくるアイデアを口に出して鉛筆を走らせている姿には注目した。


彼女は、頭の中でいろいろと想像しているように見えた。

描きながら色付けのことも考えている様子で、器用に鉛筆で濃淡を付けながら、時に難しい表情を浮かべて描き綴っていた。


そして、仕上がると嬉しそうに微笑み、「ふふ」と可愛く笑った。

その声にハッとさせられた俺は、自分が時間を忘れて、相手をずっと眺め続けていたのだと気づき愕然とした。


(あんなことは初めてだった。見合いの相手に放置されたのも初だったが、相手のことを時間を忘れるくらい見続けていたのも初めてだった)


彼女の瞳が、真っ直ぐ杉苔とスケッチブックに注がれているのを見ていても飽きなかった。

それどころか、彼女の思考を考えて、眺めているのが面白かったのだ。


しかし、同時に何だか悔しいものを感じた。

「ようやく終わったのか」と呆れ気味に声を発したのも、彼女の瞳の中に、自分を写してやりたい…という欲求が生まれたせいもあった。


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