若きビル王とのエキサイティング・マリッジ

少し歩くと、彼は通路のど真ん中で立ち止まり、急に上を見上げて、私の方へ目線を下ろしてきながら、「ここを真っ直ぐ、上を見ながら歩いてみてくれ」と言いだす。


「ええっ！？」


ここを上を見ながら歩くの！？…と繰り返して訊き返すと、「うん」と頷きながら返事が戻ってくる。


（何なの、一体）


上に何があるの？…と戸惑いながらも天井を見上げ、ライティングの眩しさに目を細めながら足を踏みだす。
通路には、金曜日の昼食時でお客様も多く、そういう中での行動は視線も集め、如何にも異様に写ったけれど……。



（あっ…）


歩き出してすぐ、天井の様子が変わり始め、大きく目が見開いた。
視界には、木材で描かれた日本の伝統文様が展開されていて、それが歩く度に様変わりしていき、まるで着物の柄のように映って見えたからだ。


（えっ、すごい！）


菱(ひし)や立涌(たてわく)、籠目(かごめ)に鱗(うろこ)…とまるで万華鏡みたいに移り変わっていく天井の様子を眺めて歩き、周りの人達の視線も全く気にならなくなってくる。