若きビル王とのエキサイティング・マリッジ

「気を抜くな！」


突然中から罵声が聞こえ、ビクッとして顔を上げる。

目の前にいる松崎さんは、あいた…といった表情で目元を細め、その横顔を斜め後ろから見つめる私は、今の声は…とドアの方を見直した。


「いいか！うちはビルを造って売るのが仕事なんだぞ！そこで手緩い仕事をしていたら、安全性などの問題が発生して、大きな事故に繋がる危険性だってあるんだ！
……分かっているなら気を抜いた仕事はするな！早々に考え直して、妥協だけは絶対にしてはいけないっ！」


大きな声で諭すと電話を切ったらしい。
松崎さんはホッと胸を撫で下ろすと私の方へ振り返り、「いつもあの調子なのです」と微笑みながら、再びノックを繰り返す。


「悠大様、松崎です」


名乗ると中から「入ってこい」と返事があり、ニコッと笑うと、彼は私に振り向いて、ガチャリとレバーを押し下げながら、「どうぞ、お入り下さい」と促してくる。


けれど、さっきの罵声に驚いた私は足が踏み出せず、狼狽えるようにして、松崎さんの方へと目線を向けた。


「大丈夫ですよ。もう怒ってはおられませんから」