若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
「『大事な着物をこんなことにして…』と祖父にはすごく怒られてしまったけれど、大好きな物を虫喰いに遭わせるのが嫌で」


祖母が贈ってくれた着物は、正絹(しょうけん)という(かいこ)(まゆ)から作られた糸で出来ている。
だから管理がとても大変で、防虫は勿論、定期的な虫干しも必要になるから厄介だったのだ。


「変わってるでしょ。こんないい物を台無しにして」


普段から「変わり者」と呼ばれてしまうせいか、自分からもつい落として言うと、彼は至って真面目な顔つきでいて、「いや…」と否定すると付け加えた。


「そうまでしても着たかっただけなんだろ。何となく、その気持ちはわかるよ」


ふわっと微笑んでくるものだから、何気にこそばゆくなる。
だから慌てて窓の外を見つめ、顔の火照りが伝わらないよう隠した。



「……なぁ、これからまだ時間あるか?」

「え?」

「一緒に夕食を食べないか。今夜は急に呼び出してしまったし、お詫びにいい店に連れてってやるよ」

「でも」

「君のお祖父さんから『孫をよろしく』と頼まれてるんだ。それに、何も食べさせずに帰したりしたら、それこそ松崎の奴が喧しいよ」


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