若きビル王とのエキサイティング・マリッジ

富豪のオアシス

土曜日の朝、彼は突然自宅に現れ、挨拶もそこそこに「行くぞ」と私を誘った。


「えっ…何処へ？」


…というか、貴方、この間の夜のこと、何も気にしてないの！？

私はあの夜からずっと、耳朶にキスされたことを思い出しては一人で焦って、胸を鳴らしながら妙な冷や汗をかき続けていたのに。


（そりゃ、あの夜は私も酔っていたし、いつもなら距離を取るところを、ガードがかなり甘くなっていたことは認めるけれど）


だからって、あんなふうに寄られてキスされるなんて思ってもみなかった。
しかも唇とかではないのだから、彼にとっては単なる社交辞令にしか過ぎないのだろうが。



（…でも、ダメだ。思い出したら照れくさくて死ぬ）


かぁーっと顔が火照り、思わずそっぽを向く。
私のそんな態度にも構わず、彼は涼しい顔つきで祖父達と会話し、和かに微笑んでいるのだけれど。




「あの…何処へ行くつもりなの？」


家族に急かされ用意をして車に乗り込めば、彼は運転席のハンドルを握りしめながら、「富豪のオアシスだ」と言ってくる。