若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
鏡張りの庫内にいる私は憂鬱そうな表情を浮かべ、顔とは対照的に晴れやかな色合いに染め上げられた総絞りの振袖と西陣織の帯や草履を履いて立ち竦んでいた。


「これじゃーどう見ても成人式だよ。お見合いって雰囲気じゃまるでないよね」


いつも通りに自分がデザインしたワンピースを着て行きたい、と言ったのに、相手は大企業の御曹司だから、と止められ、手持ちの着物の中でも一番値の張る総絞りの振袖を着せられて、髪の毛もきっちり結い上げて、似合いもしない(かんざし)まで刺して見送られてしまった。


祖父は私を見て、「よく似合うぞー」とベタ褒めだったけれど、両親は気の毒そうに笑い、「まあ楽しんできなさい」と手を振っていた。


「お祖父さんの孫可愛がりにも困ったものよ。私は結婚よりもデザインをもっと続けていきたいのに」


せめてもの抵抗とばかりに着物の端を縫い合わせて作ったバッグの中に、小さなスケッチブックと鉛筆を忍ばせてきた。

相手と早々に話して別れた後は、のんびりと写生をして帰るつもりで。


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